アラビア哺乳類の多くの種はアフロトロピカル起源と考えられ、そのほとんどにとって紅海は中新世-鮮新世移行期以来分散の障害になってきた。 ヒトを含む陸生哺乳類がアフリカとアラビアの間を移動する経路には、「北方」と「南方」の2つの可能性がある。 一方、紅海とアデン湾を結ぶバベル・マンダブ海峡を渡る「南ルート」については、鮮新世以降の海面が低い氷期には紅海横断が可能であったかもしれないが、議論のあるところである。
Hamadryas baboons (Papio hamadryas) はアフリカから分散してアラビアに今も生息している唯一のヒヒの分類群である。 本研究では,アラビアとアフリカ北東部で採取した294サンプルのミトコンドリア配列データを用いて,アラビアのハマドリアスヒヒの起源を調査した。 遺伝的多様性の地理的分布、集団拡大の時期、分岐時間の推定を古生態学的データと組み合わせて解析することにより、検証を行う。 (i) アラビアヒヒとアフリカヒヒは遺伝的に異なるのか、(ii) アラビアヒヒは集団の部分構造を示すのか、(iii) ヒヒはいつ、どのルートでアラビアを植民地化したのか。 アラビアへの最初の入植は、この地域における人類の航海の最古の記録よりかなり前であるため、ハマドリアスヒヒが人類によってアラビアに持ち込まれたという仮説は棄却された。 この結果は、アフリカからアラビアへの「南ルート」が、現代人の提案と同じ時期にハマドリアスヒヒによって利用されていた可能性を強く示唆している
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